東京国立近代美術館「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」展(会期:2021年10月26日-2022年2月13日)
年末に、東京国立近代美術館の「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」展(会期:2021年10月26日-2022年2月13日)を見てきたので、今年最初の更新はその感想を。
とにかく情報量がすごかった。中心人物であった柳宗悦を軸にしつつも、民藝運動に関わる様々な人物にも目配りしつつ、多数の収集品や新作(当時の)とともに、展示や出版、あるいは店舗やファッションまで含めた様々なメディアを戦略的に活用した運動としての民藝の姿が多面的に展示として展開されていて、圧巻だった。そしてそうした多面的展開は意図的に構成されたものであることが、図録に整理されている10の主題からも分かる。詳細は図録を入手して確認してほしいが、キーワードを参考に抜き出しておこう。
- 発見と収集
- 異文化との出会い
- 都市と地方
- 手仕事と産業、ギルド
- 観光・交通
- 建築から景観まで
- 展示する
- ネットワークをつくる
- 売る/買う
- 「日本」を見せる——ローカル/ナショナル/インターナショナル
こうした主題が、時間の経過(それは時代状況の変化でもあり、民藝運動が取り込んでいく対象の広がりでもある)と絡みつつ、展開されている。おそらく、それぞれの関心の持ちように応じて、最も印象に残る部分は変わってくるのではなかろうか。
個人的に印象に残ったのは、戦中期までの民藝運動が、植民地政策への批判的視座を内包しつつも、帝国としての日本のあり方と密接に関連しているところ。民芸運動の出発点としての、朝鮮工芸・陶磁器と柳宗悦の出会いと、浅川伯教・巧兄弟との関連がきっちり踏まえられていて、お、これは期待できる、と思っていたら、1912年の拓殖博覧会に興奮する富本憲吉とバーナード・リーチという話がぶっ込まれてきた上に、中国、沖縄、アイヌ、台湾にも目配りが来ていて、大満足。さらに、1941年の巨大な「日本民藝地図」(芹沢銈介)では、沖縄は「日本」の固有の姿を保っていると「日本」に加えられているが、朝鮮やアイヌは「日本」の外側にある、という認識が裏返しの形ではあるが示されていて、戦時期民藝運動における「日本」の輪郭がうかがえて、興味深かった。(ある意味で「内地」の日本人のまなざしの典型だったのではないか、という気もするがどうなのだろう。)
また、「官」への批判的視点がしばしば取り上げられる柳宗悦や民藝運動だが、実際には官僚の支持者によって多くの便宜が図られていたり、積雪地方農村経済研究所(施設の一部や資料は、現在、雪の里情報館に引き継がれているとのこと。)との連携など、官とのつながりも結構あったことも紹介されている。また、図録に収録されている論文では、官との対立に関するエピソードとしてやや神話化されている、1929年に資料の寄贈を、東京帝室博物館に断られた話を検証している(花井久穂「民藝の「近代」——ミュージアム・出版・生産から流通まで」p.218-227.特にp.223-224.)。専用の展示室の確保、展示への自分たちの関与、その後の収集資金までセットで話を持ち込んでいて、これはハードルが高いので断られるのもしょうがないのでは、というか、この時点では、国おかかえで活動することも選択肢として考えられていた、というのも興味深い。戦中の対外プロパガンダにも、戦後の国際文化交流にも積極的に関与していく姿勢は、ある意味で一貫しており、単なる「在野」とはいえない多面的な性格も柳宗悦や民藝運動の面白さだろう。
ちなみに、図録の解説付き文献リスト「MOMATアートライブラリーによる「民藝文献案内」」(p.228-244)は今後、研究テーマとして、民藝を考えている方々にとって、出発点となる労作かと。次の13の論点ごとに整理されていて、民藝をテーマにレポートや卒論・修論を書くという人はここからスタートできてお得。学生を指導される先生方も活用されるとよいかも。特に2000年代以降の比較的近年の研究が幅広くカバーされている印象。
- 民藝に関する基礎文献
- 民藝と民家研究
- 民藝/民俗学/民具/郷土玩具
- 古陶磁発掘ブームと東アジアの陶磁史
- 民藝と観光
- 民藝と産業
- 民藝と展示
- 民藝と挿絵と写真家
- 民藝と社会思想
- 民藝と帝国日本
- 民藝と国際交流:戦前から戦後
- 衣食住に広がる民藝
- 民藝とデザイン
- 戦後の民藝の変容
特設のショップでは、福田里香『民芸お菓子』ディスカバー・ジャパン,2018.を入手。民藝関係者がパッケージやお菓子そのもののデザインにかかわった、各地のロングセラーお菓子(和菓子中心だが、洋菓子もあり)を紹介したもの。戦後の民藝が、いわゆる「民芸品」という言葉に代表されるように土産物として大衆化していった過程を示している一冊ともいえるかも。あと、ショップの入手しやすい価格のアイテムは、ほぼ芹沢銈介一強、みたいな品揃えになっていて、ライセンス戦略も含めて色々あるのだろうとも思うのだけど、これはどういうことなのだろう、と考えさせられた。
そういえば、鳥取を中心に活躍した吉田璋也に関する展示で見られたような、民藝における、生活の中に取り入れる製品群とライフスタイルを組み合わせて提案する手法を、現在最もうまくマーケティングの方法として継承しているのは無印良品かもしれないな、などと後から思ったり。そう思って検索したら、無印良品と日本民芸館による民藝展(「民藝 MINGEI 生活美のかたち展」)が開催されていたことを知る(1月30日まで博多で開催中だけど見に行くのは厳しい…)。見に行っておけば比較できたのにと、ちょっと残念だったかも。
« 吉見俊哉『大学は何処へ 未来への設計』岩波書店, 2021.(岩波新書) | トップページ | 『ZENBI:全国美術館会議機関誌/全美フォーラム』Vol.18(2020年9月)、Vol.19(2021年3月)、Vol.20(2021年9月) »
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