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2022/01/09

『ZENBI:全国美術館会議機関誌/全美フォーラム』Vol.18(2020年9月)、Vol.19(2021年3月)、Vol.20(2021年9月)

昨年末に行った、東京国立近代美術館のミュージアムショップで、『ZENBI:全国美術館会議機関誌/全美フォーラム』のVol.18(2020年9月)、Vol.19(2021年3月)、Vol.20(2021年9月)を入手。久しぶりに読んだ。

ちなみに、次の通り、全部PDFで公開されているので、無理に買わなくても読めるのだけど、東近美に行くとつい買ってしまうのだった。

3号まとめて読むと、あいちトリエンナーレから新型コロナウイルス、という危機また危機、という展開に、全国美術館会議の一般社団法人化も重なって、色々な意味で貴重な記録になっている。

まずVol.18(2020年9月)から。一般社団法人としての定款が掲載されているのも目を引くが、各地域ブロックごとの報告に、2020年初頭の時点ではあるが、既に新型コロナウイルス感染症が影を落としている。なお、新型コロナ以外にも、橋本優子「ポスト東日本大震災、新型コロナ・ウイルス感染症時代の情報デザイン」(p.12-13)では、川崎市市民ミュージアムの台風19号被害について、報道量が少なく、把握されていた重要な情報が普及しなかった、との指摘もなされていて重要かと。

中井康之「「パンデミック・シティ」と美術館」(p.10-11)は、国立国際美術館の「インポッシブル・アーキテクチャー」展に併せて開催された、磯崎新氏と浅田彰氏の対談の実現経緯と内容のレポートになっている。磯崎新氏の「都市設計の最大のテーマは、ユートピアを作り上げることではなく、パンデミックのような事態をどのようにコントロールするか、という問題でもある」といった発言など、その後の事態を予見するかのような議論が紹介されており、貴重かと。artscapeに掲載された、中井康之「パンデミックと……、建築と……、」(キュレーターズノート)と併せてぜひ。

また、毛利直子「アートによる地域創生いろいろ」(p.24-25)で紹介されている、高松市美術館の2019年度第3期常設展「美術館今昔ものがたり」の話は興味深い。市民による美術館建設運動で誕生した戦後第一号の公立美術館だったとは知らなかった。

紙版では縦書きで反対側から読む「全美フォーラム」サイドでは、山梨俊夫「あいちトリエンナーレ2019の電凸対策に学ぶ」(p.F2-F5)が必読。段階的に強化されていった、電凸対策の要点が簡潔に整理されており、炎上時の危機対策にとって、どの公共機関も参考になるかと。村田眞宏「川崎市市民ミュージアムの被災と救援活動(報告)」(p.F6-F10)も記録として重要。

Vol.19(2021年3月)になると、各地域からのブロック報告はコロナ一色となる。危機に対する様々な取り組みが紹介されているが、個別の報告というよりは、全体として重要な記録となる性質のものかもしれない。その中で、林田龍太「コロナと水害、美術館と展覧会」(p.20-21)では、熊本の水害被害における文化財レスキューについて言及されており、「県内各館が過去に行った悉皆調査と、それに基づいて開会した展覧会及びカタログ」が「一役買った」ことが紹介されているのが目を引く。地道な地域の文化財に関する調査研究に、災害時の「「備え」としての意味」があることが指摘されているのがポイントだろう。

「全美フォーラム」サイドも新型コロナ一色だが、木村絵理子「「横浜トリエンナーレ2020:AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」(p.F11-F15)では、東京オリンピックの影響を考慮した備えが、結果的に円滑な開催準備につながったことが報告されていて、何がどうプラスに働くは予測できないなあ、としみじみ。他の報告もそうだが、危機の中で開催にこぎ着けた展覧会では、アーティストなど関係者との信頼関係が重要、ということが改めて確認されている。

Vol.20(2021年9月)では、新型コロナ後を見越した議論が始まっている印象。井関悠「「美連協」後の展覧会を考える―コロナ禍を乗り越えるために」(p.6-7)は、2020年4月の美術館連絡協議会からの通知を踏まえて、美連協の事務局業務停止の影響を論じている。Web版美術手帖の関連記事「美術館連絡協議会が事務局業務の停止を発表。コロナで活動見直しへ」と併せて読んでおきたい。また、村上敬「コロナ禍をチャンスとした館内人材の多様化を望む」(p.12-13)は、実は「富野由悠季の世界」展の静岡展に関するレポートになっているのでご注意。

「全美フォーラム」サイドでは、大野正勝「川崎市市民ミュージアムの被災直後の状況と対応」(p.F6-F9)が、タイトル通り、被災直後の対応について、コンパクトにまとめられていてあらためて当時の状況を把握するには有用かと。「当館は指定管理者制度による管理運営のため人的及び物的な手配を比較的早く進められた」(p.F9)と付記されているが、ここはもっと詳しく読みたいところではあり。

青木加苗「博物館法は誰のものか」(p.F10-13)は、博物館法改正の動きが本格化する状況において、美術館関係者に、議論への積極的参入を呼びかけている。また、全美における2000年前後に行われた博物館法に関する議論(結果的に「美術館の原則と美術館関係者の行動指針」につながっていったとのこと)を紹介していて、美術館界隈ではそういう議論があったのか、と勉強になった。

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