『美しい暮しのための少女年鑑 1957年』(「少女ブック」新年号(第7巻第1号)ふろく)集英社,1957.
先日某所の古本まつりで『美しい暮しのための少女年鑑 1957年』(「少女ブック」新年号(第7巻第1号)ふろく)集英社,1957.を入手。状態はそれほど良くはないのだけど、監修の一人が「国会図書館長 金森徳次郎」とあったので、つい手が伸びてしまった。なお、もう一人の監修は日本女子大教授の上田柳子。家政学の第一人者で服飾関係の著作が多数ある。
内容は、ファッションを前面に出しつつも、芸術・文化に関する基礎強要や、手紙の書き方、職業案内なども含んでいて、要するに女子用往来物の戦後版か……という感じ。
大きさは縦16.5cm×横9.0cm。216ページ。赤を基調にした表紙には、表面加工を施されていて、手帖風を狙った作りなのだろうか。
金森は巻頭の「りっぱな少女となるために」と題する序文も担当している。そこでは、時代が少女に求めるものを、
「肉体も精神も健全であることはいうまでもなく、学問も必要です。職業能力も必要です。趣味も美容も、文学音楽芸術もわからなくてはならない。どんな身の上の変化にぶつかっても、これをのりきっていくだけの人生能力が必要です。」
と語りつつ、この『少女年鑑』について「これらの性能を身にそなえるように企画した」とその企画意図を記している。
趣味に関する部分では、「読書」についても取り上げられていて、「図書館自動車」や「図書閲覧室」の図版も掲載。ただ、中を読むと図書館ではなく、本を大切に扱う方法や、本の選び方が中心。「出版社から出版目録をとりよせてから買うのはもっとも良い方法です」とあったり。「破損したページはセロテープで修理しましょう」とあるのは、これはいかん、とか思ったり。その一方で、「へんなつみかたをして本をいためぬよう、本棚を整理しましょう」と書かれていて、すみません、すみません、いう気持ちに……。
また、進学案内が「めぐまれた環境にある人のために」と「私はめぐまれないと思っている人のために」に分けて書かれているのが生々しい。後者では「皆さんの年ごろでは、進学か就職かがきまるときなどに、急に人生のはかなさが身にしみて、泣きわめいて両親をこまらせ」たりするかもしれないが、勉強をやめてはいけない、と呼びかけ、定時制高校や職業学校について記載している。前半の華やかなファッションや、クラシックやジャズ、絵画やバレエといった芸術、読書やカメラといった趣味などについての知識と、現実とのギャップを、書き手の側も認識しつつ、将来への希望をつなぎとめようとしている姿勢がうかがえる。
当時の金森徳次郎が若年女性の教育について、積極的に関わっていたのかどうか知識がないのだが、少なくとも、こうした場に上田柳子と名を並べて、文化芸術に関する権威づけになりうる人物として扱われていたことはうかがえる。と、同時に、この時代に求められていた教養と、そしてこのふろくがターゲットにしていた読者層が直面していた現実も。それにしても、よくこれだけの情報をコンパクトにまとめたものだ。ところどころに執筆者名が入っている記事もあり、どういうチームで書かれたものなのかも気になるところ。
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