『世界』(岩波書店)2022年6月号(通巻958号)
何号かすっとばして、『世界』(岩波書店)2022年6月号(通巻958号)を斜め読み。以下、印象に残った論考についてざっくりメモ。
登利谷正人「アフガニスタンに迫る人道危機――ウクライナ戦争の陰で」(p.16-19)は、国外に関する報道がウクライナ情勢に集中する中で、アフガニスタンがどのような状況に置かれているのか、2001年以降の経緯をコンパクトに整理しつつ論じたもの。タリバン政権の女性政策には比較的関心が寄せられる一方で「国民の約半数が深刻な飢餓に直面」している人道危機が十分に認識されていない状況に警鐘を鳴らしている。
大橋由香子「時の壁を破った高裁判決――優性保護法国賠訴訟」(p.20-25)は、大阪高裁、東京高裁で相次いで出された原告勝訴判決の意義を、被害者側の視点から解説したもの。これまで「除斥期間」により訴えを却下してきたその「時間の壁」を、どのようなロジックで乗り越えたのかの解説も興味深いが、東京高裁の裁判長が所感で「この問題への憤りのあまり、子どものいない人生を不幸だとする情緒的な表現は避けるよう、報道などの際に留意してほしい」等と述べたという話が印象的。
若江雅子「デジタル日本 その政策形成における課題」(p.26-39)は、総務省が進めていた電気通信事業法の改正によるインターネット利用者情報に関する規制が企業側のロビーイングにより骨抜きになった、という議論で、ここは他の論者の意見も確認しておきたいところ。総務省の動きへの対抗として、個人情報保護委員会を担ぎ上げる、という導入部の話が生々しくて、さすが新聞記者、という感じ。
内田聖子「デジタル・デモクラシー――ビッグ・テックとの闘い 第6回 監視広告を駆逐せよ」(p.40-49)は、Google、Facebookなどが中小の企業や団体の広告主向けに提供する広告サービスの問題点を指摘。その効果の不透明さや、広告の配信可否基準の不明瞭さが、ビッグ・テックに依存せざるをえない、中小企業・団体を追いつめている状況を論じている。末尾で紹介されている、「ビッグ・テックのサービスが『不可欠』なのは、それが唯一の選択肢であることを確実にするために、限りない反競争的な行為が行われてきたからです」という批判者の言葉を読んで、かつてのMS批判を思い出してしまった。
池田徹朗「旧ソ連の軛(くびき) ウクライナ戦争と中央アジア」(p.50-61)は、一読を強くお勧め。ロシアと歴史的にも経済的にも強く結びついている中央アジア5カ国(カザフスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、クルグズスタン、タジキスタン)が、ソ連崩壊後に辿った軌跡を紹介しつつ、ウクライナ戦争におけるそれぞれの対応を分かりやすくまとめている。国連における決議で、ロシアを批難する決議に対して、棄権や反対票を投ずる国々が置かれている複雑な状況(と、それらの国々に対してロシアが突きつけている「踏み絵」)がよく分かる。最近の中国と中央アジア諸国との関係を考える参考にもなるかと。
大門正克「生きる現場からの憲法 第2回 「戦争」と「女性」を地域から問う」(p.83-91)は、岩手県で地域に根ざした読書会活動を行なってきた小原麗子氏の取組みを紹介するもの。六〇年安保の反省を経て「地域」にこだわり、「戦争」と「女性」(小原氏は地元の「おなご」という言葉にこだわる)を問い続ける小原氏が、活動の柱の一つとしているのが読書会、というのが興味深い。読書会とそこから生まれるミニコミ誌が、地域に暮らす一人一人と世界を結ぶ回路として機能する、一つのあり方を示すものとして読んだ。
特集というわけではないのだが、差別に関する論考として、安田菜津紀「ルーツを巡る旅、ヘイトに抗う道 第4回(最終回)」(p.156-165)と、ロクサーヌ・ゲイ,訳・解説KANA「ジェイダ・ピンケット・スミスは〈冗談を笑って受け流す〉必要はない。そう、あなたも。」(p.266-270)は、それぞれ日本と米国における根深い差別と向き合う論考で、併せて読むことで、差別される側が一方的に耐えることを強いられる状況自体の非対称性の理不尽さと、それが今ここの問題であることを突きつけられる。
岡田晴恵・田代眞人「新型コロナ対策の妥当性を問う 特措法制定の当事者として」(p.250-261)は、新型インフルエンザ等対策特別措置法制定に関わった著者らが、その新型インフルエンザの世界的流行を踏まえた背景を振り返りつつ、事前の準備と発生時の強力な対処を可能にするよう設計された(少なくとも制定当時はそう意図された)特措法が新型コロナウイルス感染症対策において十分に活用されていない現状について、問題提起をしたもの。現在、新型コロナ対策政策に関わる人物が「パンデミックは100年に一度ですから」と、対策推進に水を差す発言をしていたことが紹介されていたり、なかなか複雑な背景もうかがえるが、特措法のポテンシャルを改めて考える材料になるかと。
連載もので、前の回を読んでなくて飛ばしたものもあるので、また後日単発で拾うかも(拾わないかも)。
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