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2022/10/23

藤原学思『Qを追う:陰謀論集団の正体』朝日新聞出版, 2022.

『Qを追う』表紙

(表紙画像はopenBDから。)

また更新の間があいてしまった。その間に、藤原学思『Qを追う:陰謀論集団の正体』朝日新聞出版,2022.を読了したので感想をメモ。

謎の人物Qが匿名掲示板サービスに書き込んだ「予言」を信奉する、陰謀論信奉者たちを総称した、Qアノン。その動向を、先行する報道や研究を踏まえつつ、関係が深いと思われる人物へのインタビューで描き出していく一冊、といった具合か。

Qの正体を追う著者の探求の過程を辿ることで、背景の説明や、様々な証言を読むうちに、Qを軸に展開され、拡散されている陰謀論が、単なる一部の個人の妄想や思い込みに留まらず、既に一つの社会運動となり、米国や日本の社会に影響を与えるものとなってしまっている状況がよくわかるようになっていて、とても読みやすい。

特に印象的なのは、陰謀論を支え拡散する側にとっては、そのような影響力を行使すること自体が、陰謀論の拡散の舞台となるサービスを維持、拡大する動機となりうることが、多面的なインタビューから浮かび上がってくるところだろう。特に日本の2ちゃんねるを原型として、米国でも発展した匿名掲示板サービスにかかわる人々が、「表現の自由」を建前にしつつ、実際には匿名掲示板サービスを通じて人々に影響を与える力そのものに引きつけられている様子なのは興味深い。

ロシアのプロパガンダとQアノンとの親和性(現状を破壊して変革をもたらす存在としてロシアにシンパシーを感じやすい)や、西村博之氏が運営する4chanでの議論に影響を受け、犯人が差別思想を過激化していったことが起因とされる無差別銃撃事件に関する米国での議論の紹介など、Qアノンの影響や、Qアノンを支える情報環境全般についても言及がなされている点も特徴だろう。本書で紹介されているように、日本発の匿名掲示板サービスとその文化が、米国の社会を蝕み、分断し、暴力を誘発する(少なくともその起点として機能する)ほどの影響力を持ち、それが日本の社会にも影響を与えていることについては、広く知られるべきだとも思う。

それにしても、現状への不安や不満をきっかけに、一度その入り口に立った人々が、様々なネット上のメディアを通じて陰謀論の世界に取り込まれ、逃れられなくなっていくメカニズムは、インターネット上の各種サービスのメディアとしての力がある意味見事に発揮された事例ともいえ、何とも複雑な気持ちになる。初期には、ある種のユートピア的理想主義により発展したインターネットが、本格的にそのダークサイドと向き合わなければならない時代になったことが、よく分かる一冊でもあり。

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