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2023/02/23

安東量子『スティーブ&ボニー:砂漠のゲンシリョクムラ・イン・アメリカ』晶文社, 2022.

『スティーブ&ボニー』表紙

(表紙画像はopenBDから。)

また更新に間が空いてしまった。

安東量子『スティーブ&ボニー:砂漠のゲンシリョクムラ・イン・アメリカ』晶文社,2022.を読了。

ざっくりまとめると、ひょんなことから著者が参加し、登壇することになった、2018年の米国での原子力関係の会議をめぐる、渡米から日本に帰国するまでの体験に基づくエッセイ、ということになるのだと思う。

けれども、そこで描かれているものは、とても多面的で、複雑で、だからこそ人間的で、なんとも要約しがたいもので、著者があとがきで「考えた以上に長くなってしまいました」と書かれていることに納得しかない。例えば、米国における原子力産業あるいは関連する研究分野にかかわる人たちのことや、米国に長く暮らす日系人が語る歴史、あるいは、著者自身が関わってきた福島ダイアログを通じて出会った人々、また、会場となったワシントン州のハンフォード(マンハッタン計画の拠点の一つとして整備され、プルトニウム生成のための原子炉が設置された場所)を、自らの生きる土地として選んだ人々の姿、著者の生まれた広島のことなどなど、様々な要素が絡み合いつつ描き出されている。特に、会議開催中の滞在先のホストファミリーの夫婦(と、家族や友人たち)は印象的で、そのお二人の名前がタイトルになっていることにも、これまた納得しかない。

誰にお勧めするか、というのは難しいが、一例を挙げれば、科学史や、STSに関心のある向きは、読むと様々な示唆が得られると思う(例えば、科学史の語られ方自体にもナショナルな要素が入り込む、といった視点や、専門家がどのようにして信頼を失いがちなのか、という論点などが、体験を通じて実感を持って語られていたりする)。原子力問題についても単に批判・賛美に固定化するのではなく、そこに関わる人の視点から物事を捉え直すような視点が提示されていて、頭の中がぐるぐるかき混ぜられる感じもある。

といっても、あくまでエッセイ的な書き振りで、「ひとつの物語」と著者自身があとがきで書かれているとおり、語り口は平易。登場する人物たちもそれぞれ個性的、そして料理についての描写がいちいち、すごくおいしそうだったり、激烈にまずそうだったりするのがなんとも読んでて楽しい。

奇跡のような出会いや交流に、思わず泣けてくる場面もある。マンハッタン計画も、広島も長崎も、米国における日系人差別も、東日本大震災と東電福島第一原発事故も、今もそことつながったところで、自分たちが生きている、ということを、静かに教えてくれる一冊だと思う。

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