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2024/02/04

板橋区立教育科学館「いたばしアニメ博」

会期最終日駆け込みで、板橋区立教育科学館「いたばしアニメ博」(会期:2023年12月23日(土)-2024年2月4日(日) )を見に行ってきた。

最寄り駅は東武東上線上板橋駅。駅から歩いて5分ほどで到着。

前日に上映イベントがあったそうだけど、そもそもこういった展示を開催していることに気付いたのが最終日当日だったので、これはやむなし。板橋区立教育科学館には初来訪。プラネタリウム中心に、子ども向けのプログラムが充実しているようで、おっさん一人でふらりと行った自分は大変浮いてた気がする。

展示自体は2階の教材製作室という部屋一室での展開で、小さい展示ではあるものの、中身はめちゃめちゃ濃かった。しかも、展示を担当された研究員の方が会場におられて、解説までしていただけたという贅沢体験。

中心になるのは、戦前期の日本で、一時期家庭用の動画映像上映媒体として流通していた紙フィルムに残れたアニメ作品。紙なのに「フィルム」とはこれいかに、なのだけど、映画フィルムと同様の形式で、連続するコマを紙に印刷し、一コマずつ送るための穴があいている、というもの。フィルムを転写したものが多く、現在フィルムが未発見の作品が、この紙フィルムで発見される、といったこともあるとのこと。

紙フィルムは最初は大日本印刷が開発したそうで、その後、複数の追随するメーカーが現れたとのこと。普通のフィルム式の映写機は光をフィルムに透過したものを拡大して映写するわけだけど、紙フィルム用の映写機は強い光を当てて反射した画像を拡大して映写するわけで、フィルムとは似て非なる映写機構になっているところが面白いところ。また、紙なので色つきで印刷できるので、カラーというのも面白い。

そして紙なので、紙に複製が可能! というわけで、手作業で紙にコピーしたものを切っては貼って繋いで穴を開け……という作業を行った復元紙フィルムを上映可能にしたり、スキャンしてモニターに動画として上映、といったことも行われていた。復元には延々と単純作業が続くわけで、結果的に当時の作業に近いものを実体験することにもなったというお話もうかがった。モニターでいくつか動画も上映されていて、当時の色つき動画というのを疑似体験できたのも大変ありがたし。

さらに、1930年代、映画にトーキーが登場したことを受けて、家庭でも動画と音を一緒に楽しもうと、開発された上映機器の実機も展示されていた。蓄音機と映写機の合体機構や、蓄音機の動力を映写にも活用しようという映写機など、発想はわかるけど……という感じのものも。実際にちゃんと動いたかどうかは別にして、チャレンジ精神がすごい。一方で、映写機も戦時期の物資統制の影響を受けて金属がほとんど使えなくなったり、フィルムの素材でありるセルロースが火薬の原材料に回されていった、といった、戦争の影響のお話もうかがったり。

映像と音との連動、という点では、スタートのタイミングを合わせるために、内側から再生する特殊な蓄音機も紹介されていて(レーベルにスタートする場所を印刷できるためとのこと)、なんと、音も聞かせていただくことができたのだけど、音量も音質も良質で、ちょっとびっくり。映画上映用にはもっと大きな盤面で高速回転のものがあって、現存は非常に希であることや、内側から再生する蓄音機は、溝が横方向ではなく縦方向に振動する仕組みで、そのためにノイズが少ないが、深い溝を作る必要があるために、コスト面では不利だったという話もうかがって、これまたなるほどだった。

また、幻灯機や、それまでの動く絵が横方向に連続するものが多かった(ゾートロープ(回転のぞき絵)とか)ことから、連続するコマ(画像)を横の水平方向に並べたフィルムが初期には多かったのが、フィルムを垂らす形の縦の垂直方向に変化したといった話や、初期(20世紀初頭)のアニメーション作品で水平方向のものと、垂直方向のもので、重ねてみるとまったく同じ絵のものがあることが確認された事例の紹介もあったり。これは解説聞きながらでないと、なかなか分からなかったかも。

総じて、限られたスペースの中で、動く映像の発展史を、音や媒体なども含めて、多様な可能性が探求された過程として描き出す意欲的な展示で、これは上映イベントも観たかったなあ。解説リーフレット4種のうち、一つはもうなくなっていたのは残念だったけど、これまた凝った作りだったり。

なお、解説をしてくださった研究員の方は、昨年、関東大震災の津波被害を記録した映像のフィルムを発見した方でした。今度はそちらの関連の展示も企画されているそうで、これはまた上板橋に行かねばならぬでしょう。

(参考)関東大震災100年 発掘された記録映像 知られざる津波の脅威(NHKニューウオッチ9)2023年9月19日

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