2022/07/24

小田嶋隆『東京四次元紀行』イースト・プレス,2022.

『東京四次元紀行』表紙

(表紙画像はopenBDから。)

小田嶋隆『東京四次元紀行』イースト・プレス,2022.を読了。これが小田嶋隆氏の遺作、ということになるのだろうか。

小田嶋隆氏のことをどう語れば良いのか、正直なところよく分からない。

面識があったわけでもなく、間接的にその人柄を知っているとか、そういうわけでもない。ただ、小田嶋氏がデビューした初期の1980年代、『遊撃手』や『Bug News』といったコンピュータ系の雑誌で、そのコラムを読んでいた。自分にとって、その面白さは格別だった。その後、大学のサークルで出していた同人誌に自分が書いた原稿は基本全て、小田嶋氏のように書きたい、と思って書き、そしてもちろん、実際にはそれとは似ても似つかぬものになり果てた文章だと言って良い。

本書を読んだ時、そうしたデビュー当初の小田嶋氏が書いていたものに、何故か近いような印象を受けた。コラムではなく、小説(らしきもの)として書かれた本書で、どうしてそんな印象を受けたのだろう。

たぶんだけれど、ある意味でどうでも良いこと、多くの人にとって意味のないことが書かれているから、かもしれない。

近年の小田嶋氏は、もともと好きなスポーツに関連するものを除けば、政治的・社会的事件・発言に対する批判的な視点からのコラムを中心に活躍されていたように思う。そのことを支持する読者がいた一方で、SNSでの陰湿な攻撃の対象にもなっていた。そのことに関連して、小田嶋氏は、『その「正義」があぶない。』日経BP社,2011.の「発刊によせて」で次のように書いている。

「元来、私はカタい話を好まない。というよりも、原稿を書く人間として出発して以来30年、私は、熱弁を揶揄し、力説に水をかけ、甲論を黙殺し、乙駁を聞き流しながら、観察者の立場を防衛してきた者だ。もう少し手加減のない言い方をするなら、私は、論壇のチキンレースから逃れたい一心で、面倒くさい話題から距離を置いていたのである。逃げていたという言い方をしてもらってもかまわない。栄光ある撤退。逃走に至る三十六計。私のペン先は、いつも退路を描いていた。」

しかし、小田嶋氏が「面倒くさい話題から距離を置いていた」などという本人の言をそのまま信じるわけにはいかない。むしろ、世間の常識や、著名人相手にけんかを売りまくっていたように思うし、それもまた一つの芸になっていたと思う。とはいえ、自虐を交えることで攻撃的な印象を中和する、という技も使ってはいたように思うので、そういう意味では逃げ道を用意はしていたのかもしれない。しかし、相当のリスクを負って、自分の文章の力で勝負をかける勝負師ではあり続けていたように思う。

ただ、初期の小田嶋氏は、もっと意味がないことを書いていたような気がする。気がする、というのは、最初の単行書である『我が心はICにあらず』が手元で見つからないからで、こういう時に見つからないのも、なんとはなしに自分の持っている小田嶋氏のイメージと合致しているのでそれはそれで良いのかも(これがちゃんとした書評ならここで落第だが)。

もう少し付け加えるとすれば、意味がない、というのは、ちょっと正確ではないかもしれない。ほとんどの人にとって、それに何の意味があるのか分からない、という方が、もう少し、本書の感じに近いかもしれない。

本書で描かれるのは、社会的な意義や政治的な意味とは離れたところで、多くの人にとってどうでも良いことにこだわってしまい、どうでも良いことに躓き、どうでも良い(あるいはどうにもならない)結果を迎えたり、どうでも良い一時の救いを得たりする、一般的に言えばダメな人たちの物語である。読んだら必ず泣けるような物語ではないし、何かを学べる類いのものでもない。

けれど、多くの人にとってどうでも良いことが、自分にとってはどうでも良くない、ということから逃れられず、そのことを引受けて生きていく(あるいは生きていくことができなくなる)、このどうしようもなくダメな登場人物たちを、小田嶋氏は否定することがない。

小田嶋氏自信がそういう方だったの可能性もあるし(アルコール中毒だった時期があったことや、締め切り破りの常習犯であったことは良く知られている)、そういったタイプの人たちと接する機会が多かったのかもしれない。それは分からない。これは(一応)小説ということなのだし、小田嶋氏自身、本書の冒頭で「この文章を書きはじめるにあたって、私は、これまでコラムやエッセイを書く上で自らに課していた決まりごとをひとつ解除している。それは「本当のことを書く」という縛りだ。」と書いているくらいなので、本書には「本当のこと」は書かれていないのかもしれない。とはいえ、この序文自体が「本当のこと」なのかどうか、どこまで信じてよいのかも、私には分からない。

いずれにしても、本書で描かれた、多くの人にとって意味がないことにこだわり、躓きながら、それでも生きているし、存在しているし、その事自体が実は語るに値することなんじゃないか、という感覚は、1980年代半ばから後半の、デビュー当初の小田嶋氏とどこかつながっているような気がして、とても懐かしく読みふけってしまった。年月が経ち、今の時代にこれを書くには、小説、という形が必要であった、ということなのかもしれない。それが、書き手にとって幸福なことだったのかどうかは分からないけれど、本書が刊行されたのは、(他の人にとってどうなのかは分からないが)少なくとも自分にとっては幸福だった。

これが最後でさえなければ、もっと良かったのだけれど。

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2006/11/26

MacBook Pro復活

 一ヶ月更新をさぼってしまった。何となく書く気が起きなかった、というのもあるのだけれど、MacBook Pro(既に旧型…)が頻繁にカーネルパニックを起こして落ちてしまう、という現象が起きていて、それも原因の一つだったかも。
 結局、起動すらしなくなってしまったので(かなり危なかったが、何とかバックアップは取れていた)、先週末に慌てて心斎橋のApple Storeに持ち込んで見てもらった結果、ロジックボード交換ということになり、やっと本日手元に。半日かけて環境も復旧できて、ちょっとほっとしたところ(Teslaで親指シフト化も無事完了)。
 ちなみに、Apple Storeの対応はなかなか好印象。ピックアップと違って移動時間はかかるが、その場で状況を確認して、対処方法がはっきりするのはありがたい。
 ブログの方はぼちぼち再開予定だけれど、まともに更新できるのは、来週以降になるかなあ。

2006/09/18

インテルMacとtesla

 間抜けなことに、転んで右の手の平にちょっと深めに擦り傷を作ってしまい、しばし更新できず。擦り傷だからか、どうにも治りが遅く、未だに完治していないのだけれど、あともう少しで治りそう、というところまでたどり着いた。
 その上、ついつい誘惑に負けて、MacBook Pro 15" 2GHzを購入。移行に手間取って(それでも、以前に比べたら随分楽になった)ますます更新が遅くなってしまった。
 移行で最も心配だったのが、Mac OS Xでソフト的に親指シフト入力を可能にする、というTeslaが、Tiger (Mac OS X 10.4)に(ということは当然ながらインテルMacに)対応していない、ということだったのだが、素晴らしきかなオープンソース。公開されているソースコードから、Tiger用にビルドする方法をまとめてくれる方々がおり、その情報のおかげで何とかなった。

Macと親指シフトの掲示板(2006年9月18日現在アクセスできず)
Miscellanium of Keisuke Kamimura(特に、「MacBookでTeslaが動く!……誤謬と訂正」「MacBookでTeslaが動く!……追加情報」の二つのエントリー)

試行錯誤の過程と結果を公開してくださった方々にはいくら感謝しても足りないほど。ちなみに、私の場合は、Mac OS X 10.4.7で、ソースコードを修正してビルドした結果、一応動作している模様(たまにうまく動かなくなるような)。X codeのバージョンは2.2.1でした。
 あとは、Paralles Desktopも導入してWin2000をインストール。これで、Gyaoやバンダイチャンネルも見られるようになって一安心(何が?)。
 とはいえ、インテルMacでも動作するウィルス対策ソフトが案外まだ出ていなくて、焦ったり。ちなみにこれは、ウィルスバリアを購入して対応。
 まだ何かとありそうだけれど、全体としては、思っていたよりも、インテルMac未対応のソフトもそれなりに動く、という印象。まあ、これから色々問題が出てくるのかも。それはそれで楽しみのうち、ということで。

(同日追記)
 Teslaについて。現在アクセスできない状態になっている「Macと親指シフトの掲示板」で報告されていた(はずの)、一度ログオフして再度ログインすると駄目、といった症状が生じていることに気付いた。何やら、何かのプロセスを再起動したりすると良かったような(そしてそのためのスクリプトも誰かが書いてくれていたような)気がするんだけど、思い出せない……。まあ、再起動すれば治るんだけど。
 何にしても、インターネット上の情報は気がついた時に手元に保存しておかないと駄目、ということを痛感。

2006/09/02

60000

 おやおや、いつの間にやら、ユニークビジター数の合計が60,000を突破。
 ココログにもようやく標準のカウンターが用意されるようになったのだけれど(いや、待たされました)、しばらくこのままにしておくか。
 新しいアクセス解析機能がなかなか面白くて、これを使って色々見ていると、『フラット化する世界』とか『時かけ』みたいな時事ネタ(?)を除いては、見事なまでにアクセスされるページがばらけていることがわかって面白かったり。ロングテール?
 といいつつも、総ページ数が増えている割には(って、そんなに増えてないか)、総アクセス数は増えていないような気がするので、この程度のコンテンツ数ではロングテール効果は出ない、ってことなんだろうなあ。

2005/11/16

忘れたころに思い出バトン

 MIZUKIさんのところから、思い出バトンを渡されていたのだけれど、ほったらかしになっていたので、ぼちぼち。
 でも、実をいうと、昔のことは、あんまり思い出したくないような……。

【Q.1:小学校・中学校・高校の中で一番思い出のある時期は?】
 楽しかったのは高校かなあ。
 校内暴力吹き荒れる中学校も、マンガやアニメ好きの友達ができた(そして道を誤った)という意味では思い出深いのですが。思えば、うる星やつらが分岐点だったよなあ。そういえば、ガンダム(ファースト)の再放送やら、ミンキーモモ(初代の方の本放送)を見る為(ビデオなんてなかったし)に部活をさぼってダッシュで帰ったりしてたのも、中学のときか。うーむ、いかん、忘れろ、忘れるんだ……。

【Q.2:一番お世話になった先生は?】
 小学校のときのM崎先生。偏屈な子供をよく面倒みてくれました。

【Q.3:得意科目】
 中学までは、実技がない科目は、大抵なんとかなっていたような(嫌なやっちゃなあ)。
 高校からは数学・物理・化学ですか。今では考えられません。

【Q.4:苦手科目】
 体育! ヤツほど憎いものはなし。我が生涯の敵といっても過言ではないでしょう。
 後は、漢字の書き取りですか。ワープロが出てきた時には、夢の機械に思えたものです。
 高校からは英語も今一つだったような。

【Q.5:思い出に残っている学校行事を3つ】
 K口探検隊が半馬人を発見する、というストーリーのビデオをみんなでとった高校2年のときの文化祭とか、同室の連中が何故かみんな一眼レフを持っていた高校のときの修学旅行とか。えーっと、演劇部で関東大会まで連れてってもらったのは、高校1年だったかなあ。

【Q.6:クラスでのキャラは?】
 何でしょうね。小学校高学年の時には、休み時間に一人で、図書館から借りた早川の海外SFノヴェルズ(ハードカバーのやつ)を一人で読んでたりする大変嫌な子供でした。まあ、どっちかっていうと、優等生タイプだったのかなあ。ただ、オタクだし。どういう位置にいたのか、よくわかんないです。

【Q.7:学生時代の呼び名は?】
 ばーちゃんとか、ばっちゃんとか。ひどい時には、ばふん(○ば君、が訛った)、なんてのもありました。

【Q.8:好きな給食は?】
 黒糖パン。むぎゅむぎゅとつぶして食べました。

【Q.9:繋げる5人】
 毎度すみませんが、繋げません。

 ああ、しんど。やっぱり、年をとった分だけ、自由になるっていうのは本当ですな。

2005/07/23

近況

 仕事でどたばたして、それが一段落した途端に体調をちょいと崩したり(夏に熱出すとつらい……)。というわけで、なかなか更新できず。その間にたまったネタをぼちぼち短めに出していくことにします。

2005/05/18

30000

 急に仕事が忙しくなってきて、ネタはあるのだが、なかなか更新できないでいるうちに、ユニークビジターのカウンタが30000を超えている。
 20000を超えたのが、2004年12月24日。ざくっと、半年で延べ1万人と考えると1日平均50人くらいかな? まあ、文字系同人誌として考えれば、そんなものかなあ。
 ちなみに、アクセス解析などを見ていると、ブックマークや、はてなブックマークを使って来ているのは全体の1割から2割の間で、後は検索エンジン経由、という感じ。同人誌の固定客と一見さんと思えば、やっぱり、まあ、そんなものか。

2005/04/24

mixiの日記を別に書いてみる

 mixiを始めて、いくらかたってきて、なんとなく、mixiの面白さ、というか、知ってる人をゆるく繋ぐ仕組みの面白さを感じられるようになってきた気がする。
 で、マイミクシィとやらも、何人か(今のところ職場関係ばかりなのが、自分の人間関係の狭さを物語っているような)できてきたので、数日前から、日記をこのブログとは別にmixi独自の仕組みで書いてみることにした。
 知っている人が定期的にチェックしてくれていることがわかるとなると、何となく、独自のコンテンツがないと悪いかな、という気がしてしまったのがその理由。
 ……はっ! これがmixiの罠なのか?
 なるほど、よくできてるなあ。
 ちなみに、mixiの日記は本当に日記なので、(知り合い以外には)ほとんど付加価値はなかったりする。

2005/04/15

mixiに参加してみる

 知人に誘われて、mixiに登録してみた。
 多分、コミュニティとしては、一番面白い(あるいはサイズとして分かりやすい)時期を逃してしまったのだろうなあ、と思いつつ、SNSって実際にはどんな感じなのだろう、と思っていたので、ほいほいと誘いにのってしまった。
 とりあえず、日記としてこのブログを登録してみたりするが、正直、今一つ何がどうなっているのか、どうもよくわからない。
 しかたないので、「コミュニティ」とやらで「図書館」関係のところを覗いてみたりするが、なんだか昔のニフティサーブのフォーラムみたいな感じがしなくもなし。そういえば、加入しないと発言できないとか、システムも似ているような。そういうところがいいのかなあ。
 と、同じ職場の人間が図書館関連のコミュニティで発言しているのを発見。知ってる人をマイミクシィとやらに登録するといいらしいので、ほほう、と思うが、しかし、部下を登録するのは何となく心苦しい気がしてしまう。とりあえず、忘れないうちにお気に入りに追加、とやらをやっておいたが、よく考えるとこっちがその人のページを訪問したのはバレバレ、というシステムなのであった。むう、何だか妙に気を使うぞ。
 まあ、mixi世界のルールが見えてくるまでは様子を見るか……。

2005/02/20

メモ書き 『モンテ=クリスト伯』とか三原順とか

 公私両方でどたばたしていて、更新できず。ものを書こうという欲望があまり出てこない、というわけで、ちょっと燃え尽きぎみかも。

 メモ書きその1。
 『巌窟王』を見ていたら我慢できなくなってしまい、書棚から、『モンテ=クリスト伯』を取り出して読み出してしまう。私の手元にあるのは、講談社から1990年に「Super文庫」シリーズとして出た、B5サイズの一冊本で、訳者は泉田武二。講談社文庫版を一冊にむりやり押し込んだもの、と思い込んでいたのだけれど、確認してみると、訳者が違う。なるほど、評論社の「ニューファミリー文庫」とやらが元本らしい。不可思議。それにしても、改めて見ると、B5サイズで3段組というのは、かなり無茶なレイアウト。誤字脱字も多いし、重い。でも、読み始めると止まらないんだよなあ。作品が面白いと、多少のことは気にならないということか。
 こういう大長編こそ、専用読書端末向けにいいような気もするのだけれど、貸本方式じゃあ何だなあ。その前に、デジタルデータがないから、改めて入力しないといけないのか、と、思っていたら、「箱男」のエントリー「「アジアinコミック2005」の風景」を読むと、日本の電子ブック事業の発想だと、画像でやっちゃえ、ということになるみたい。こりゃ、そのうちGoogleに著作権切れのおいしいところを根こそぎ持っていかれても、文句はいえんなあ。あ、あと国立国会図書館の近代デジタルライブラリーね。
 そういう動きに対抗するための著作権保護期間延長なのかもしれないけれど、なんだかなあ、という気がしてしまう。あ、ごたごたしていた間にパブコメ終ってる。ありゃりゃ。

 メモ書きその2。
 「内田樹の研究室」のエントリー「「原因」という物語」経由で、「スーさんの熱血うなとろ日記」のエントリー「学校を責めるメディアと親たち」を読んで、三原順の「Die Energie 5.2☆11.8」(『三原順傑作選'80s』(白泉社文庫, 1998)に収録)のことを久しぶりに思い出す。
 登場キャラクターを含めて、長編『X-Day』につながっていく、原子力をテーマにした短編。とにかく描かれている事件の経緯そのものが複雑で、最初に読んだときには、描かれている事件の概要が把握できなかったほど。その後、繰り返し何度も読んだけれど、未だにちゃんと理解しているかどうか自信がない。
 それでも、誰もが自分が被害者であると主張して人を非難し、攻撃する現実を前にして、主人公が「オレは加害者でいい! ただの加害者でいい」と言い放つシーンは、とても印象に残っている。自分たちの仕事のことなのに、何故か評論家になってしまう同僚の姿を見るたびに、頭の中でこのセリフが甦る。
 内田樹いうところの「批評性というのは、どのような臆断によって、どのような歴史的条件によって、どのような無意識的欲望によって、私の認識や判断は限定づけられているのかを優先的に問う知性の姿勢のことである」という意味での「批評性」のあり方を、三原順の作品は、今も示して続けているのだと思う。自分がそれをどれだけ実践できているかどうかはまた別の話なのだけれど。

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