2021/11/20

『日本古書通信』2021年11月号(86巻11号)

『日本古書通信』2021年11月号(86巻11号)を少し前に読了したので忘れないうちに感想をメモ。

とにかく、川島幸希「日本近代文学館への提言」(p.8-9)が重い。「所蔵資料のデジタル化の遅れ・利用者への高額な各種サービス提供・情報発進力の弱さ」等の課題や、その前提となっている収益構造の問題点を指摘しつつ、改善策を提言している。その一方で「スタッフの一人ひとりが文学へのリスペクトと、近文にアクセスする人への愛情を持つこと」の重要性を強調するなど、単なる運営論に終わらない観点も提示。他の文学館と比較しての議論などもあり、文学館に関心を持つ方は必読ではないか。

また、タイトルからは分かりにくいが、佐々木靖章「キヌタ文庫創設者 永島不二男はモダンボーイだった」(p.10-11)は、東京銀座の文化史の話でもあり。個人的には「ルパシカを身にまとい、両手・両足・腰に鈴をつけて、毎日提示に銀座を往来」という、ストリートパフォーマンスを関東大震災前に行っていた、という話に驚いた。また、銀座のカフェ「クロネコ」による雑誌『クロネコ』『船のクロネコ』の紹介もあり。

鈴木紗江子「北米における日本の古書研究2」(p.16-17)は、ブリティッシュコロンビア大学(UBC)の講義動画「物語文学と写本」の制作プロジェクトで苦心した点を紹介。日本の古典文学研究における概念を英語で紹介するために様々な工夫がなされたことが分かる。最も難しかったという「池田亀鑑が大島本を最前本とした」という一節をどう提示するかのくだりなど、目的に合わせた翻訳のあり方として重要かと。また、「作ることが目的のデジタル化事業から、デジタル化したものを最大限に活用することを目標とする時代になった」という一節は、デジタル化をめぐる状況の変化を端的に著していて、印象的。ちなみに、当該の動画は"Exploring Premodern Japan Series Vol. 4 – Tale Literature (monogatari bungaku) and Manuscripts: The Case of The Tale of Genji"(リンク先は早稲田大のサイトでの紹介)ではないか。

日本研究といえば、川口敦子「パスポートと入館証、準備よし!(35)」(p.32-33)も興味深い。スペイン国立図書館での2回目の調査でのエピソード。データベースにないものはない、と主張する書誌情報室の担当者と、古い冊子目録に遡って確認して当該資料を発見するベテラン司書、という、類似したエピソードに覚えのある図書館関係者も多いのでは、というお話。遡及入力を過信してはいかんのですよね……

小田光雄「古本屋散策(236) 『現代史資料』別巻『索引』」(p.35)は、『現代史資料』の別巻「索引」について。その重要性と、それが国会図書館に通い詰め、記憶力と紙のカードによって編纂された、高橋正衛という編集者「個人の作品」であることが語られている。コンピュータ時代以前のこうした成果をどう継承するのか、という問題でもあるかと。

その他、「書物の周囲 特殊文献の紹介」(p.40-41)では、香川県立ミュージアムの「自然に挑む 江戸の超(スーパー)グラフィック—高松松平家博物図譜」展の図録が紹介されていて、見たかったなあ……としみじみ。あと、青裳堂書店の日本書誌学大系の広告(p.41)で、大小暦の図録である岩崎均史編『大小図輯』と、永井一彰『版木の諸相』の刊行を知る。すごい価格になっているが、何部刷ってるんだろう…

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2021/10/30

『日本古書通信』2021年10月号(86巻10号)

『日本古書通信』2021年10月号(86巻10号)を読んだのでざっくり気になった記事についてメモ。

  • 塩村耕「足代弘訓『学問答書』のこと」p.2-4

まだまだ出てくる岩瀬文庫の未整理資料。今回は、伊勢外宮の神職で国学者でもあったという、足代弘訓(ひろのり・1784-1856)が文政9年(1826)に著した学問論に関する小冊子について。特に、当時の国学者についての悪しき風評を伝える部分が興味深く、事実かどうかはともかく、国学者を山師的な存在として叩く人たちがいた、というのが面白かった。

  • 中澤伸弘「二題 撰集『雨夜の友』について/古書と教師とその行方」p.4-6

後半では、北野克『墨林閑歩』研文社,1992.について、小出昌洋氏の編によること、北野翁が都立千歳高校の定時制教員であることなどに触れ、昭和の都立高校で、校長も他の教員も古書に理解があったことを紹介しつつ、自身の教員生活を振り返ってどうであったかを語っている。

昔は良かった的な印象を受ける話もあるものの、「教員は研究と研修が大切であると奉職早々に先輩教員から諭され、研修日もあつた都立高校が懐かしい」という指摘は、現在の教員が置かれている状況を表していて、切ない。

  • 川島幸希「近代作家の資料4 夏目漱石の森田草平宛献呈本」p.8-10

これは詳細は読んでもらうほかないと思うが、ネットオークションで示された断片的な情報から、これを見いだす眼力がすごい、としか言い様がない。それだけ常に資料をきっちり見て分析している、ということでもあるかと。その種明かしをこれだけオープンにしてくれる、というのがまたすごい。

  • 田坂憲二「雑誌『エトアール』のこと—吉井勇周遊—」p.10-12

プランゲ文庫のマイクロ資料に含まれている雑誌『エトアール』について、著者所蔵の現物から詳細を紹介したもの。実はこの雑誌、第一工業製薬と深いかかわりがあることが論じられており、戦後初期の京都文化人と地元企業との関係、という面からも興味深い。

  • 森登「銅・石版画万華鏡170 明治の小型洋装本」p.13

明治期の小型英和辞書を中心に、その装丁と、組み版の工夫について紹介している。小さな版面に小型の活字で情報をいかに圧縮して詰め込むか、という活版におけるレイアウト技術の話でもあり。

  • 蓜島亙「『露西亜評論』の時代(50) 一九一七年革命前後のロシア観」p.14-15

特に終盤の、既刊の雑誌の売れ残りを合冊して合本として販売する習慣が、明治期から大正12年前後まで多くあり、時にタイトルも変えて売られていた、という話や、さらにいくつかの雑誌の抜粋を簡易表紙をつけて書籍として販売した、という話が面白かった。刷ったものは再利用してたんだなあ…

  • 川口敦子「パスポートと入館証、準備よし!34」p.30-31

各国の図書館、文書館での調査時の経験を語る連載。今回からスペイン国立図書館の話に。2012年から2014年まで、毎年ルールが細かく変わっていた、という話が興味深い。また、持ち込むことができるものの制限がどんどん厳しくなっていった、という話も。

  • 小田光雄「古本屋散策235 高橋正衛と『現代史資料』」p.33

みすず書房の『現代史資料』についての話。現代史資料の右翼関連担当だったという、高橋正衛について。松本清張への情報提供者でもあった、という話も。1974年第40回配本(『国家主義運動3』)の『現代史資料月報』掲載の、伊藤隆氏の言葉が紹介されている。

  • 八木正自「Bibliotheca Japonica CCLXXXVI 『蘭科内外三法方典』と橋本宗吉について」p.38

大阪蘭学の祖と呼ばれる橋本宗吉(1763-1836)とその著作の紹介。

橋本宗吉については、関西・大阪21世紀協会「なにわ大坂をつくった100人」でも紹介されているので、そちらも併せて。

  • 青木正美「古本屋控え帳424 鹿島茂氏と私」p.39

出会いそうで出会わない、著者と、書評の書き手の話。「もはやお会いする機会はないであろう」という言葉が、良い意味で裏切れらることを祈るばかり。

  • 「書物の周囲 特殊文献の紹介」

紹介されていた、次の資料が気になった。

小澤健志 編『江戸時代輸入蘭医書要覧』青史出版, 2020. https://id.ndl.go.jp/bib/030796315

富山県「立山博物館」編『かがやく天産物 : 時代を越える立山ブランドを求めて… : 富山県「立山博物館」令和元年度後期特別企画展』富山県「立山博物館」, 2019. https://id.ndl.go.jp/bib/030063083 ※前田利保など越中の本草・物産学について大きく取り上げている模様。

  • 「談話室」

いわゆる編集後記。古通で何度か拝読していた、川和孝氏の訃報をここで知った。日本の秀作一幕劇百本の上演をライフワークにされていて、2020年4月14日~19日に予定されていながら、上演中止になったシアターΧ『鰤』『貧乏神物語』で百本達成予定だったとのこと。新型コロナで失われたものの大きさを思う。

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